こんにちは、かずおです。
給食の厨房で魚の下処理をしていると、魚より時計を見たくなることがあります。
このあと、魚をホテルパンに並べて、スチコンで焼く。
その間にも、ほかの作業が待っています。
魚が何切れ残っていようと、提供時間は待ってくれません。
そんなときに先輩から言われました。
「下から一切れずつ取って、皮を上にして重ねるんだよ」
一切れずつ。
目の前には、今日出す分の魚が全部あります。
正直、思いました。
「ただ混ぜれば早いのになあ」
でも、実際にやってみると、焼き上がった魚の味のそろい方が違いました。
今では私も、タレに浸った下の切り身から、一切れずつ取って重ねています。

魚の下味は、タレに浸った下の切り身から
私の現場では、冷凍の切り身を袋のまま流水で解凍し、ザルに上げてドリップを切ってから、漬けダレに入れます。
タレに入れたあとの作業は、こうです。
- タレに浸っている下の切り身から、一切れずつ取ります。
- 取った切り身を、皮を上にして重ねていきます。
- 下にあった魚を順に上へ移し、上にあった魚にもタレを行き渡らせます。
切り身が重なっていると、下の魚はタレに浸っていても、上の魚にはタレが十分に届いていないことがあります。
下にあった魚を順に上へ移していくと、上にあった魚もタレに触れるので、短い漬け時間でも味がそろいやすくなります。
魚は身がやわらかいので、ここは一切れずつ。急いでまとめて動かしたくなりますが、身を崩さないように扱います。
下味がついたら、次はスチコンで焼きます。
焼く温度や時間が気になる方には、私の現場での実例を別の記事にまとめています。
▶ スチコンで焼き魚をふっくら仕上げる温度・時間の実例を見る
時計を見ると、やっぱり混ぜたくなる
一切れ取って、皮を上にして重ねる。もう一切れ取って、また重ねる。
こう書くと、落ち着いた作業に見えます。
実際の私は、途中で時計を見ています。
「このあと、まだ並べるんだよな」
「ほかの作業もあるんだよな」
もう一度、魚を見ます。
魚は、時計を見ている間には減りません。
全部まとめて混ぜれば、この作業は早く終わります。
それで次の仕事にかかれる。忙しい厨房では、その数分が欲しいんです。
でも、目の前の魚は、誰かのお昼ごはんになります。
自分が食べる一切れだったら、ちゃんとタレが回っているほうがうれしい。
そう思って、また下から一切れ取ります。
早く終わらせたい気持ちも、おいしく出したい気持ちも、どちらも本音です。
今でも余裕のない日は、その二つが頭の中で言い合いをしています。

「精神論だ!」と先輩に言われた
魚の扱いを教わったとき、先輩からは何度もこう言われました。
「魚は身がやわらかいんだから、愛情を持って丁寧に扱え!」
「精神論だ!」とも言われました。
当時の私は、愛情と言われても、目の前の魚をどうしたらいいのかと思っていました。
でも、先輩は手の動きまで教えてくれました。タレに浸った下から一切れずつ取る。皮を上にして重ねる。
やわらかい身を丁寧に扱う。
今の私には、「愛情を持って」という言葉は、忙しいときでも、その一切れを雑に扱わないということだったのかなと思います。
仕上がりの違いを知ってからは、あのとき何度も言われたことを、ありがたく思っています。
教わっている最中は、時計ばかり気にしていましたけどね。
粕漬けのようにタレが濃いときは、漬け方を加減する
一切れずつ丁寧に扱うやり方は、照り焼き以外の漬け焼きにも使っています。
ただ、粕漬けのように漬けダレの味が濃いときは、味が強く出ることがあります。
私はタレの濃さを見て、漬ける時間を短くしたり、料理酒でタレを少し薄めたりします。
タレを行き渡らせることと、味をどこまでつけるかは、別々に考えます。
同じように一切れずつ重ねても、魚の厚みやタレの濃さが違えば、漬け方も加減します。
こういうところに、調理のセンスが出ると私は思います。
忙しい日ほど、先輩の言葉を思い出す
今も、魚がたくさん残っていると「混ぜたら早いよな」と思います。
たぶん、これからも思います。
それでも、下から一切れ取って、皮を上にして重ねる。
焼き上がった魚の味がそろっていると、あのひと手間をかけてよかったと思います。
あのとき「ただ混ぜれば早いのに」と思っていた私が、今ではそのやり方を書いています。
先輩には、あのとき教えてもらったお礼を言いたいです。


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