美味しい給食を作る、給食調理師の味見術5つのポイント

給食の新人が困った

「かずおさんの作るものは美味しい」

先日、職場で70代の女性パートさんから、こんな言葉をもらいました。

調理師にとって、「美味しい」は最高の褒め言葉です。

私は平静を装って、

「ありがとうございます」

と答えました。

しかし、心の中ではガッツポーズを3回ほどしていました(笑)。

病院や介護施設の給食は、一度にたくさん作る大量調理です。

決められた分量、限られた時間、厳しい衛生管理。

さらに、お店のように作ってすぐ食べてもらえるわけではありません。

だからこそ、美味しい給食を作るには、ただ味見をするだけでなく、何を確かめるために味見をするのかが大切です。

今回は、若い頃に職人さんから教わり、今も続けている私の味見術を紹介します。

給食は、作った直後がゴールではない

レストランでは、完成した料理をすぐお客さんへ提供できます。

しかし、病院や介護施設の給食は違います。

調理してから盛り付け、配膳をして、ようやく利用者さんのもとへ届きます。

私の現場では、調理から提供までのホールディングタイムを4時間以内で管理しています。

その間に、料理の味や状態は少しずつ変わります。

  • 煮物は味が濃くなる
  • 和え物は野菜から水分が出る
  • 焼き物は時間とともに硬くなる
  • とろみのある料理は重くなる
  • 揚げ物は衣がしんなりする

作った直後に美味しくても、利用者さんが食べる頃には違う味になっていることがあります。

料理も人間と同じです。

時間がたつと、本当の顔が出ます(笑)。

給食調理師が考えなければならないのは、完成直後の味だけではありません。

利用者さんが口にするときにも美味しいか。

そこまで考えて、ようやく給食が完成します。

味見をしても、味が決まらないことがある

調理をする人なら、ほとんどの人が味見をするでしょう。

しかし、味見をしているのに味が決まらないことがあります。

ひと口食べて、

「なんとなく薄い」

と感じて、しょうゆや塩を足す。

もう一度食べても、まだ何か足りない。

さらに調味料を足したら、今度は味が濃くなりすぎた。

大量調理では、少しの調味料でも全体に大きく影響します。

家庭料理のように、

「ちょっと入れてみよう」

では済まないことがあります。

大量の鍋にしょうゆを勢いよく入れたあとで、

「入れすぎました。元に戻してください」

と言っても、料理は戻ってくれません(笑)。

だから私は、調味料を足す前に、味を分解して考えるようにしています。

若い頃、職人さんから教わった味見術

私が若い頃、ある職人さんからこう教えられました。

「味見をするときは、美味しい、まずいで終わらせるな。味を分解して、五味に分けて考えろ」

五味とは、次の5つです。

  • 甘味
  • 塩味
  • 酸味
  • 苦味
  • うま味

ただ「薄い」「濃い」と判断するのではありません。

何が強いのか。

何が足りないのか。

なぜ味が決まらないのか。

一つずつ分けて考えます。

味見は、ひと口食べて、

「うん、美味しい」

とうなずく儀式ではありません。

口の中で行う、小さな分析会議です。

ただし、真剣な顔で何度も食べていると、周りからは普通のつまみ食いに見えます。

違います。

これは仕事です。

たぶん(笑)。

「薄いから塩を足す」では終わらせない

料理を味見して薄いと感じても、本当に塩味が足りないとは限りません。

例えば、次のような原因が考えられます。

  • だしのうま味が弱い
  • 食材から水分が出ている
  • 加熱が足りず、味がなじんでいない
  • 甘味が強く、全体がぼやけている
  • 酸味が足りず、味が締まっていない

塩味を足さなくても、だしのうま味を補えば味がまとまることがあります。

少し加熱して水分を飛ばすだけで、ちょうどよくなることもあります。

料理によっては、わずかな酸味を加えることで全体の味が引き締まります。

反対に、調味料を加えず、少し時間を置いた方がよい場合もあります。

味が薄いと感じたら、すぐに調味料へ手を伸ばさない。

まず、何が足りないのかを考える。

これが、私の味見術の基本です。

私が味見で確認する5つのポイント

給食を作るとき、私は次の5つを意識して味見しています。

1.塩味だけで判断しない

「薄い」と感じても、すぐに塩やしょうゆを足しません。

うま味、甘味、酸味とのバランスを確認します。

塩味が十分でも、うま味が弱いと物足りなく感じることがあります。

2.食材から出る水分を考える

野菜や冷凍食材からは、調理後にも水分が出ます。

完成直後にちょうどよくても、時間がたつと味が薄くなることがあります。

和え物や煮物では、特に水分の変化を意識します。

3.温度による味の感じ方を見る

同じ料理でも、熱いときと冷めたときでは味の感じ方が変わります。

熱いときには気にならなかった塩味が、冷めると強く感じることもあります。

提供するときの温度を考えて確認します。

4.食感も一緒に確認する

美味しさは、味だけでは決まりません。

野菜が硬すぎないか。

魚や肉がパサついていないか。

とろみが強すぎて食べにくくなっていないか。

特に病院や介護施設では、利用者さんの食べやすさも大切です。

5.時間がたった料理を食べる

私は、検食やまかないで時間がたった料理も必ず食べます。

完成直後だけでは分からない変化があるからです。

味が濃くなっていないか。

水分が出ていないか。

食感が悪くなっていないか。

利用者さんが食べる頃の状態を確認し、次の調理に生かします。

検食は料理の反省会

先日も、70代の女性パートさんと一緒に検食をしていました。

「今日は少し味が濃いね」

「この料理は、時間がたつと水が出るね」

「○○さんが作ると、こういう味になるね」

食べながら、いろいろな話をします。

その方は、長年いろいろな調理師の料理を食べています。

誰が作った料理はどのような仕上がりになるのか。

調理後にも味を確認している人と、あまり確認していない人の違い。

私が知らなかったことも教えてくれます。

検食は、ただ食べるだけの時間ではありません。

料理を囲んだ、小さな反省会です。

議長はいません。

いるのは、ご飯とおかずだけです(笑)。

その会話の中で、

「かずおさんの作るものは美味しい」

と言ってもらいました。

毎日いろいろな人の料理を見て、食べている方だからこそ、その一言には重みがありました。

計量調理でも、作る人によって味は変わる

病院や介護施設の給食は、決められた分量で作る計量調理が基本です。

レシピも調味料の量も決まっています。

それなら、誰が作っても同じ味になると思われるかもしれません。

しかし実際には、同じレシピでも仕上がりは変わります。

  • 食材の状態
  • 火の入れ方
  • 加熱時間
  • 混ぜるタイミング
  • 水分の飛ばし方
  • 調味料を加える順番
  • 最後の味の調整

数字では決めきれない部分に、調理する人の経験が出ます。

レシピどおりに作ることは大切です。

しかし、レシピどおりに作ったからといって、必ず美味しくなるとは限りません。

その日の鍋の中を見て、食べて、考える。

そして必要な調整をする。

それが、給食調理師の仕事だと思います。

味見で気づいたことを次の調理に生かす

味見をして、

「今日は少し濃かった」

「水分が多かった」

と気づくだけでは、次につながりません。

大切なのは、その原因を考えることです。

なぜ濃くなったのか。

加熱時間が長かったのか。

食材の水分が少なかったのか。

調味料を入れるタイミングが早かったのか。

原因が分かれば、次回は作り方を変えられます。

私は、次に同じ料理を作るとき、

「前回は時間がたつと味が濃くなった」

「前回は野菜から水分が出た」

と思い出しながら調理します。

一度の味見で終わらせず、次回の調理へつなげる。

ここまで行って、味見が技術になるのだと思います。

まとめ|味を分解すると給食はもっと美味しくなる

美味しい給食を作るために、私が大切にしているのは次の4つです。

  1. 味を五味に分解する
  2. 「薄いから塩」と簡単に判断しない
  3. 時間がたった料理も確認する
  4. 気づいたことを次の調理に生かす

病院や介護施設の給食は大量調理です。

決められた分量と時間の中で、安全に、しかも美味しく作らなければなりません。

簡単な仕事ではありません。

だからこそ、

「かずおさんの作るものは美味しい」

という言葉が、心に残りました。

若い頃に職人さんから教わった、

「味を分解して考えろ」

という言葉。

私は今も、その教えを給食調理に生かしています。

今日も鍋の前で、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味を確認する。

何度も味見をするので、体重だけは少し心配です(笑)。

それでも、利用者さんが食べるときに美味しい給食を作りたい。

そのために、これからも私の小さな分析会議は続きます。

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